
「生成AIに頼めばVBAを書いてもらえるのに、今さらマクロ記録を学ぶ必要はあるのだろうか」
そう感じる人もいるのではないでしょうか。
確かに、以前と比べると、自分でコードを一行ずつ書く必要は少なくなりました。
やりたい作業を生成AIへ伝えれば、数秒でVBAコードが表示されます。
マクロ記録よりも、最初からAIに作ってもらったほうが早いように見えるでしょう。
それでも、VBAを初めて学ぶ人には、マクロ記録を一度は経験してほしいと考えています。
マクロ記録は、完成した業務システムを作るための機能ではありません。
自分が行ったExcel操作と、VBAコードの関係を確認するための機能です。
この関係が分かると、生成AIへ何を伝えればよいか、生成されたコードのどこを確認すればよいかが見えるようになります。
AIがコードを書いてくれる時代だからこそ、マクロ記録の役割はなくなったのではなく、変わったのです。
この記事では、AI時代にもマクロ記録を学ぶ意味と、初心者がどこまで取り組めばよいのかを解説します。
マクロ記録とは、Excel操作をVBAコードにする機能
マクロ記録は、Excel上で行った操作を記録し、VBAコードとして保存する機能です。
たとえば、次のような操作を記録できます。
- セルへ文字を入力する
- セルの色を変える
- 表に罫線を引く
- シートをコピーする
- 列の幅を変更する
- 並べ替えやフィルターを実行する
記録を開始してExcelを操作すると、その動きに対応したコードが自動的に作られます。
利用者が最初からVBAの構文を知っている必要はありません。
自分が普段行っている操作が、どのようなコードになるのかを目で確認できます。
ここに、マクロ記録を学ぶ大きな意味があります。
AIがコードを書けるのに、なぜマクロ記録が必要なのか
生成AIへ「表に罫線を引くVBAを作ってください」と頼めば、コードを作成してもらえます。
そのため、コードを入手することだけが目的なら、マクロ記録を使わなくてもよい場面は増えています。
しかし、初心者が困るのは、コードが手に入らないことだけではありません。
コードを受け取った後に、次のような疑問が生まれます。
「どのセルを操作しているのだろう」
「シート名はどこで指定しているのだろう」
「この数字を変えると、何が変わるのだろう」
「自分の仕事に合わせるには、どこを直せばよいのだろう」
マクロ記録を使うと、自分で行った操作と、その直後に作られたコードを比較できます。
A1セルを選択した。
A1セルに文字を入力した。
背景色を変えた。
それぞれの操作がコードのどの部分に対応しているのかを確認できます。
最初から長いコードを読むよりも、動作とコードの関係を理解しやすいのです。
マクロ記録は、ExcelとVBAの間にある「通訳」
VBAの初心者にとって、コードだけを見ても何をしているのか分かりにくいものです。
一方、Excelの操作であれば、日常業務で使っているため理解できます。
マクロ記録は、普段のExcel操作をVBAの言葉へ変換してくれます。
つまり、ExcelとVBAの間にいる通訳のような存在です。
たとえば、自分でセルを黄色にした後、記録されたコードを確認します。
すると、
「この部分がセルを指定している」
「この数値が色を表している」
操作とコードを結びつけられます。
すべてのコードを理解できなくても構いません。
自分が行った操作と変化した部分を見比べるだけで、VBAに対する心理的な壁が下がります。
それまで意味の分からない文字列に見えていたコードが、「Excelへの操作指示」として見えるようになるからです。
生成AIへの依頼が具体的になる
生成AIから目的に合ったVBAを受け取るには、やりたいことを具体的に伝える必要があります。
しかし、VBAをまったく知らない状態では、何を伝えればよいのか分かりません。
たとえば、「Excelを自動化してください」という依頼だけでは、生成AIは具体的な処理を判断できません。
一方、マクロ記録を通してExcel操作を分解できるようになると、次のように伝えられます。
「売上一覧シートのA2から最終行までを、金額の大きい順に並べ替えてください」
「集計シートのB2からB20までの空白セルを黄色にしてください」
「入力シートをコピーし、シート名を今日の日付に変更してください」
ここで重要なのは、コードの書き方を覚えていることではありません。
どのシートの、どの範囲に、何をするのかを説明できることです。
マクロ記録は、自分の操作を小さな処理に分ける練習になります。
この力が、生成AIへの依頼を具体的にします
生成AIが書いたコードを確認しやすくなる
前の記事では、生成AIが書いたVBAを修正できなかった事例を紹介しました。
そこで問題になったのは、利用者がコードを一から書けなかったことではありません。
コードの中で、以下のようなことが判断できなかったことでした。
- どこがセルを指定しているのか
- どこがシートを指定しているのか
- どの部分が繰り返し処理なのか
マクロ記録を経験していると、少なくともセルやシートを操作するコードに見覚えができます。
生成AIが作ったコードのすべてを読めなくても、
- 「この部分は対象範囲を指定しているのではないか」
- 「ここにシート名が書かれている」
このように、仕事に関係する部分を探しやすくなります。
AIが書いたコードを、自分の仕事に合わせて使うには、全体を暗記する必要はありません。
まず、変更や確認が必要な場所を見つけられることが大切です。
マクロ記録には限界もある
マクロ記録は便利ですが、記録したコードをそのまま実務で使えるとは限りません。
ここは、初心者が誤解しやすい点です。
マクロ記録は、人が行った操作を忠実にコードへ変換します。
そのため、記録中に不要なセルを選択すれば、その操作もコードに含まれます。
同じ場所を何度もクリックすれば、その動作も記録されます。
また、記録したときと表の行数が変わると、処理できないこともあります。
たとえば、記録時にA2からA10までを選択した場合、翌月にデータがA20まで増えても、自動的に範囲が広がるとは限りません。
マクロ記録は、完成品を自動で作る機能ではありません。
人が行った操作をコードへ変える機能です。
この違いを理解して使う必要があります。
記録されたコードが長くても、落ち込む必要はない
マクロ記録で作られたコードを見ると、想像以上に長くなることがあります。
セルを一つ変更しただけなのに、何行ものコードが作られることもあります。
初心者は、それを見て、「こんなに難しいものは理解できない」と感じるかもしれません。
しかし、記録されたコードを最初からすべて理解する必要はありません。
- どのセルやシートを指定しているか
- どのような操作をしているか
- 自分の操作を変えると、コードのどこが変わるか
たとえば、A1セルへの操作を記録した後、同じ操作をB2セルでも記録します。
二つのコードを比較すると、セル番地が変わっている場所を見つけられます。
この小さな比較が、コードを読む練習になります。
理解できない行が残っていても問題ありません。
すべてを一度に理解しようとすると、学習が止まってしまいます。
マクロ記録だけでは、できないこともある
マクロ記録は、Excel画面上で実行した操作を記録することが得意です。
一方、画面操作だけでは表しにくい処理もあります。
たとえば、次のような処理です。
- データがある最終行まで繰り返す
- 条件によって処理を変える
- ファイルがなければ警告する
- 複数のブックを順番に開く
- エラーが発生した場合だけ別の処理をする
これらには、変数、条件分岐、繰り返し処理などの知識が必要になります。
そのため、マクロ記録だけを学べば、すべての自動化ができるわけではありません。
マクロ記録の役割は、VBA学習を完了させることではなく、学習を始められる状態を作ることです。
Excel操作とコードの関係を知った後、必要に応じて基礎を学びます。
この順番なら、何のために変数や繰り返し処理を学ぶのかが分かりやすくなります。
AI時代にマクロ記録を学ぶ4つの意味
AI時代にマクロ記録を学ぶ意味は、コードを自動生成することだけではありません。
1. Excel操作を処理単位に分けられる
普段は一連の作業として行っている仕事を、「選択する」「入力する」「コピーする」「保存する」といった小さな処理に分けられます。
この力は、生成AIへ作業内容を説明するときにも役立ちます。
2. 操作とコードの関係を確認できる
自分が行った操作からコードが作られるため、VBAを抽象的な記号ではなく、Excelへの指示として理解できます。
3. AIが作ったコードの確認箇所が分かる
セル、シート、範囲など、仕事に直接関係する部分を探しやすくなります。
4. 小さな自動化をすぐに試せる
最初から業務全体を自動化する必要はありません。
書式設定や定型入力など、失敗しても影響が小さい作業から試せます。
マクロ記録は、VBAを書くためだけの練習ではありません。
仕事を分解し、AIへ伝え、出力を確認するための練習でもあるのです
マクロ記録を学ぶことに将来性はあるのか
「これからAIがさらに進化すれば、マクロ記録も不要になるのではないか」そう考える人もいるでしょう。
将来、今より簡単な指示でExcel作業を自動化できるようになる可能性はあります。
しかし、AIが進化しても、人が決めなければならないことは残ります。
- 何を自動化するのか
- どのデータを使うのか
- どこまでAIに任せるのか
- どの結果を正しいと判断するのか
- 例外が起きたらどう処理するのか
これらは、コードを書く技術とは別の力です。
マクロ記録を通して学べるのは、単なる構文ではありません。
自分の操作を観察し、処理として分け、仕組みに置き換える考え方です。
特定のコードを暗記するよりも、この考え方のほうが、AIが進化した後にも残ります。
将来性があるのは、マクロ記録というボタンそのものではありません。
マクロ記録を通して身につく、「仕事を処理として見る力」です。
マクロ記録が向いている人
マクロ記録は、特に次のような人に向いています。
VBAを初めて学ぶ人
いきなりコードを書くより、自分のExcel操作からコードが作られる様子を確認したほうが、VBAの役割を理解しやすくなります。
過去にVBAで挫折した人
構文や専門用語から学び始めて挫折した人は、普段の操作を記録するところから再開できます。
生成AIが作ったコードを理解したい人
セルやシートを操作する基本的なコードに慣れることで、生成されたコードの確認箇所を見つけやすくなります。
毎日同じExcel操作を繰り返している人
書式設定、転記、並べ替えなど、手順が決まっている作業は、マクロ記録で小さく試せます。
一方で、複数ファイルの複雑な処理や、例外の多い業務をすぐに自動化したい人は、マクロ記録だけでは足りません。
その場合は、業務を整理したうえで、生成AIやVBAの基礎学習を組み合わせる必要があります。
初心者がマクロ記録で最初に試すこと
最初から仕事で使っている重要なファイルを自動化する必要はありません。
練習用の新しいブックを作り、次のような簡単な操作から始めます。
STEP1 セルに文字を入力する
マクロ記録を開始し、A1セルへ「売上」と入力して記録を終了します。
作成されたコードを開き、A1や「売上」という文字が書かれている場所を探します。
STEP2 入力先を変えて比較する
今度はB2セルへ「売上」と入力して記録します。
最初のコードと比較し、どこが変わったかを確認します。
STEP3 セルの色を変える
セルの背景色を変更する操作を記録します。
入力とは異なるコードが追加されることを確認します。
STEP4 生成AIへ説明してもらう
記録されたコードを生成AIへ貼り付け、次のように質問します。
「このコードをVBA初心者向けに、処理ごとに分けて説明してください。変更する可能性があるセル番地や文字列も教えてください」
マクロ記録と生成AIを組み合わせることで、自分の操作、コード、説明を一つにつなげられます。
マクロ記録で作ったコードを使う前の注意点
記録したマクロを実務で使う前には、必ずテストが必要です。
特に、削除、上書き保存、ファイル移動を含む操作には注意してください。
最初は、元のファイルをコピーして練習します。
少ないデータで実行し、処理前と処理後を比較します。
また、マクロ記録には、選択したセルや画面上の操作がそのまま残ることがあります。
一度動いたからといって、毎回正しく動くとは限りません。
データの行数やシート名が変わっても動くかを確認する必要があります。
安全に試し、結果を人が確認する。
これは、マクロ記録で作ったコードでも、生成AIが作ったコードでも同じです。
これからできること
これまでマクロ記録を使ったことがない人は、練習用のExcelブックを一つ作ってください。
そして、次の3つだけを試します。
- A1セルへ文字を入力する
- セルの背景色を変える
- 記録されたコードを確認する
コードを暗記する必要はありません。
自分が操作したセル番地と、入力した文字が、コードのどこに書かれているかを探してください。
すでにマクロ記録を使ったことがある人は、毎日または毎週繰り返しているExcel作業を一つ選びます。
その作業を、次のように分けて書き出してください。
- どのシートを開くか
- どのセルや範囲を選ぶか
- 何を入力または変更するか
- どこまで同じ操作を繰り返すか
- 最後に人が確認することは何か
画面上の単純な操作だけで完了するなら、マクロ記録で小さく試せます。
条件による判断や繰り返しが必要なら、変数、条件分岐、繰り返し処理を次に学ぶ目印になります。
生成AIへVBAを依頼している人は、記録されたコードをAIへ渡し、処理内容と変更箇所を説明してもらってください。
マクロ記録は、AIに負けないために学ぶものではありません。
AIへ自分の仕事を伝え、作られたコードを確認し、安全に使うために学ぶものです。
コードを書く方法が変わっても、仕事を整理し、仕組みに置き換える役割は人に残ります。
その最初の一歩として、マクロ記録は今も有効です。
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